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高松高等裁判所 昭和35年(ネ)312号 判決

控訴人 山本勇木

被控訴人 松沢常以 当事者参加人 国

国代理人 大坪憲三 外二名

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人は当事者参加人が控訴人に対して金三二万二、〇六四円およびそれに対する昭和三五年七月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の取立権があることを確認せよ。

控訴人は当事者参加人に対し右金員を支払え。

三、被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審を通じかつ参加によつて生じた費用を含めこれを四分し、その三を控訴人、その一を被控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は被控訴人の請求に対して「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、当事者参加人の請求に対して先ず「本件参加申立を却下する」との判決を求め、本案について「当事者参加人の控訴人に対する請求を棄却する」との判決を求めた。被控訴代理人は本件控訴についてそれを棄却する判決を求めた。当事者参加人指定代理人は主文第一、二項同旨および「訴訟費用は控訴人、被控訴人の負担とする」との判決を求めた。

二、各当事者の事実上の陳述は左に記載するほかは原判決の事実の摘示と同一であるからこれを引用する。

(1)  被控訴代理人の陳述(イ)控訴人主張の合計二二万七、九〇〇円の木炭の納入があつたことは認めるが、そのうちの原木代金に充当する分は既に請求額から控除してある。したがつて控訴人の仮定抗弁は理由がない。(ロ)当事者参加人主張事実のうち税額は争うがその他は認める。参加についても異議はない。

(2)  控訴代理人の陳述(イ)当事者参加について。被控訴代理人は控訴代理人の同意を得て昭和三六年五月二一日本件訴を取下げたので同日本訴の訴訟係属は消滅した。その後翌五月二三日本件参加申立書が当事者双方に送達されたが、それは本訴取下後のことであるから不適法な申立である。もつとも右参加の申立書が裁判所へ提出されたのは右取下書の提出よりも前ではあるが、参加申立はその申立書が送達された時にはじめて被申立人を拘束する効力が生ずると解すべきである。仮りに右参加申立が通常の訴訟として有効であるといえるとしても、管轄地方裁判所へ移送するなり管轄違いとして却下すべきである。(ロ)控訴人と被控訴人との間の契約は被控訴人のいうような原木の売買ではない。昭和三二年六月中両者の間で次の契約ができた。すなわち控訴人は昭和三六年四月二三日までに受持の全原木を製炭して被控訴人に引渡す、被控訴人は別に定められた価額から一俵につき六〇円を山手(原木対価)として控除した金員を製炭請負費として控訴人に支払う、控訴人は右請負代金のうち一俵につき五円づつを被控訴人の許に積立てる。控訴人は右約定のもとに直ちに窯その他の準備にかかり昭和三二年八月から昭和三五年五月二一日までの間に製炭とその引渡を完了した。したがつて原木代金の請求は失当である。(ハ)仮りに右主張が認められず、控訴人主張のとおり原木の売買であつたとしても、控訴人は被控訴人に対し

(a)  一万五、〇八五円(昭和三三年一月二九日 木炭  六八俵)

(b)  五万六、八七〇円(同年二月一四日    木炭 二四四俵)

(c)  五万六、五七五円(同年二月二八日    木炭 二三四俵)

(d)  三万四、四一五円(同年三月二八日    木炭 一五五俵)

(e)  三万八、七一五円(同年四月一三日    木炭 一七〇俵)

(f)  二万一、一四五円(同年四月一八日    木炭  九一俵)

(g)  五、〇九五円(同年四月二五日      木炭  二二俵)

合計二二万七、九〇〇円を被控訴人主張以外に入金している。したがつて被控訴人の請求は右限度で失当である。(ニ)当事者参加人主張の税に関する事実は、控訴人に対する差押通知のあつたことのみを認めその他は不知。

(3)  当事者参加人指定代理人の陳述、被控訴人は昭和三二年六月一〇日控訴人に対し被控訴人の所有で高知県高岡郡窪川町島戸通称鈴木山に生立する製炭用原木を代金八五万円で売却し、その代金支払方法につき、控訴人は右原木で生産した木炭を昭和三五年三月末日までの間に被控訴人に納入しそれを時価で買取つてもらいその代金中一俵当り六〇円の割合で原木代金八五万円に達するまでこれに充当する、右木炭代金中一俵につき四円を被控訴人において保管し控訴人が契約を完全に履行しない場合に原木代金に充当することを約した。右約旨に従い控訴人は被控訴人に対し昭和三二年八月二七日から昭和三五年五月二一日までの間前後四八回にわたつて合計五〇万六、二四〇円を原木代金として支払いまた合計二万一、六七六円を積立てた。そしてその後原木代金の支払いがないので右積立金を原木代金に充当した結果被控訴人の控訴人に対する原木売却代金残額は三二万二、〇六四円となる。被控訴人は昭和三三年度所得税を滞納しその額は昭和三六年二月七日現在において本税六万九、五五〇円、加算税二万八、三五〇円、利子税八万六、五四〇円、延滞加算税二万八、三五〇円(合計二一万二、七九〇円)に達したので、当事者参加人は同日被控訴人の控訴人に対する前記原木代金債権を国税徴収法第六二条により差押え、その調書の謄本が同月八日被控訴人に、差押通知書が同月九日控訴人にそれぞれ送達されたから、参加人は同法第六七条により本件債権の取立権を取得した。ところが被控訴人は本訴において控訴人に対して右債権の支払を請求するので、参加人は本件債権(前記差押えた範囲内である)を自己の権利として当事者参加する。

三、証拠〈省略〉

理由

一、まず当事者参加の適否について判断する。

本件において当事者参加人が昭和三六年五月二二日午前一〇時三〇分その当事者参加の申出書を当裁判所に提出して参加の申出をなしたところ、同日午前一一時三〇分被控訴代理人から控訴代理人の同意を得た訴の取下書が当裁判所に提出されたこと、右参加の申出書が被控訴代理人および控訴代理人に送達されたのは翌五月二三日であること、はいずれも記録上明らかである。そこで参加の申出書が提出された時を基準にすればその時には本訴が係属していたことは明らかであるが、もし参加の効力が申出書の送達の時に生ずるとすればその時には訴の取下が有効になされたことになるので訴訟の係属がなく参加が不適法とならざるをえない。控訴代理人は後の見解に立つ。しかし当裁判所は「参加の申出は参加人として為し得る訴訟行為と共に為すことができる」(民事訴訟法第七一条、第六五条三項)ことや送達の遅速という偶然に支配されるべきでないことから、参加の申立書が裁判所に提出された時に訴訟が係属していれば足りるものと解する。したがつて本件当事者参加の申立は適法であり許容されるべきである。(訴の取下は効力を生じえない)

二、次に被控訴人と控訴人間の債権関係について考える。

当審における被控訴本人尋問の結果によつて成立を認めうる丙第五、第六号証の各一、二に証人岡山幸枝の証言、当審および原審における被控訴本人尋問の各結果を綜合すると次の事実が認められる。すなわち被控訴人は昭和三二年四月ないし六月頃控訴人に対して高知県高岡郡窪川町島戸通称鈴木山に生立する被控訴人所有の製炭用原木を代金八五万円で売却し、その代金支払方法について控訴人が右原木で生産した木炭を昭和三五年三月までに被控訴人に納入しそれを時価で買取つてもらいその代金中一俵当り六〇円の割合で合計八五万円に達するまで右原木代金に充当すること、および右木炭代金中一俵につき四円づつを被控訴人において積立て保管し控訴人が契約を履行しない場合に原木代金に充当することを約した。右約旨に従い控訴人は被控訴人に対し昭和三二年八月二七日から昭和三五年五月二一日までの間に四八回にわたつて合計五〇万六二四〇円を原木代金として支払いまた合計二万一、六七六円を積立てた。そしてその後控訴人から原木代金の支払いがないので右積立金を原木代金に充当した結果、被控訴人の控訴人に対する原木売却代金残額は三二万二、〇八四円となる(丙第六号証の二の昭和三五年三月六日の一万三、二六〇円とあるは丙第五号証の二の同年五月二一日の三万一、八六〇円から同年六月一四日の一万八、六〇円を引いた残額と認められるので一万三、二四〇円の誤である。したがつて原木代金残額が原判決の認定および参加人の主張と異なつてくる。)以上の事実が認められる。よつて被控訴人は控訴人に対し厚木代金残額として三二万二、〇八四円の債権を有していることになる。

控訴人は被控訴人との間の契約が原木の売買ではなく製炭請負いである旨主張し控訴本人尋問の結果は右主張に添うものであるが、それは前記証拠と対比すると信用することができず、その他に右主張を認めるに足る証拠がないので、右主張は採用しない。なお右主張のうち一俵につき五円を積立てる約定であつたという点も原木代金に充当されるのはそのうちの四円だけであることが認められるから前認定を左右しえない。

また控訴人は仮定的になお合計二二万七、九〇〇円の支払いをしたと主張するが、前記丙第五、第六号証の各二には控訴人主張の木炭の納入、その仕切金、差引いた山手金(原木代)の各記載があつていずれも被控訴人において既に計算済であることが認められるから、前記残債権額には影響がない。(成立に争いのない乙九号証の一、二は丙第五号証の二と対比すると記載に脱落があることがわかる。なお、控訴人主張の合計二二万七、九〇〇円の木炭が納入されたことは被控訴人との間で争いがない。しかし右金額が全部原木代金に充当されるものではない。)

三、進んで参加人の取立権について判断する。

成立に争いのない丙第一ないし第四号証によると、被控訴人は昭和三三年度所得税を滞納し、その額が昭和三六年二月七日現在において本税六万九、五五〇円、加算税二万八、三五〇円、利子税八万六、五四〇円、延滞加算税二万八、三五〇円(合計二一万二、七九〇円)に達したこと、そのため当事者参加人は同日被控訴人の控訴人に対する前記原木代金債権を国税徴収法第六二条により差押えその調書の謄本が同月八日被控訴人に、差押通知書が同月九日控訴人にそれぞれ送達されたことが認められる。(以上のうち被控訴人は税額をのぞく事実を認め、控訴人は差押通知のあつた事実のみを認めている。)被控訴人は右税額を争うが右認定をくつがえす証拠はない。

したがつて当事者参加人は国税徴収法第六七条により右差押債権の取立をすることができる。その反面被控訴人は右原木代金を請求できないことになる。

四、結論

以上説示のとおりであるから、被控訴人は当事者参加人に対し金三二万二、〇六四円(前記原木代債権額および差押金額の範囲内で、原判決が認容し参加人が請求する金額)およびそれに対する本件支払命令が控訴人に送達された日の翌日である昭和三五年七月二九日から完済まで年五分の割合による金員を控訴人から取立る権利があることを確認すべきであり、控訴人は右金員を当事者参加人に支払う義務がある。すなわち当事者参加人の請求は正当であるからこれを全部認容することとし、被控訴人の請求は失当であるからこれを棄却することとする。これと結論を異にする原判決は取消をまぬがれない。なお訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九四条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり負担させる。よつて主文の如く判決する。

(裁判官 渡辺進 水上東作 石井玄)

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